2015-12-25 16年度予算案閣議決定 借金頼みの1億総活躍
政府は24日の閣議で、2016年度の当初予算案を決めた。目玉は、安倍政権が掲げる「1億総活躍社会」の実現に向けた関連予算だ。
一般会計の総額は、15年度当初予算より0.4増の96兆7218億円となり、4年連続で過去最大を更新した。高齢化によって年金や医療などの社会保障費が増えるほか、防衛費や公共事業費も伸びた。歳入では、企業業績の改善などに支えられ、新たな借金となる新規国債の発行額をリーマン・ショック前の水準まで減らす。
歳出全体の約3分の1を占める社会保障費は、15年度当初より1.4%増の32兆円としたが、増加幅を5千億円以内に収めるとした財政健全化計画の「目安」は守った。医療サービスの公定価格である診療報酬の改定を8年ぶりのマイナスにするなどして伸びを抑えた。
安倍晋三首相が掲げる「1億総活躍社会」を実現するための予算として、今年度より5千億円増の2.4兆円を確保した。子どもが多い低所得世帯の保育料負担を軽減するなど子育てや介護支援を増やした。
防衛費は1.5%増となり、初めて5兆円を超えた。中国の海洋進出に備えた装備品の購入や、米軍基地の移設工事が本格化するためだ。公共事業費は26億円の微増。農業予算は、農地や排水路などを整備する土地改良事業が7.6%増の2962億円となった。来年の参院選をにらんだ与党の増額要求に応えた。
文教・科学振興費は、教職員定数の削減などで4億円の減少。地方交付税交付金は地方税収が伸びたため、2500億円減って15.3兆円だった。
歳入は、税収が5.6%増の57.6兆円と、25年ぶりの高水準を見込む。新規国債の発行額は6.6%(2.4兆円)減らし、34.4兆円を見込んだ。発行額が前年度を下回るのは4年連続。予算に占める借金の割合は35.6%となり、2.7%幅改善するが、だが、歳入の4割近くを借金に頼る構図は変わっておらず、国民が安心して暮らせる予算への道のりは依然、遠いのが実情だ。
以下にポイントをまとめた。
■医療・福祉 社会保障費は微増
社会保障関係費の総額は、前年度当初比1.4%増の31兆9738億円となった。
1億総活躍社会推進に関連した3分野の事業に比重が置かれた。
「GDP600兆円」に向けて、「正社員転換・待遇改善プラン」に基づき452億円を予算化し、非正規社員を正社員にした場合、1人60万円を企業に助成。新たに定期昇給制度などを導入し非正規労働者の賃金を2%以上引き上げた企業への助成額(下限)を10万円に増やす。中小・零細企業への相談体制も拡充する。
■五輪 若手発掘・育成、17億円
スポーツ関連予算は過去最大の324億円。10月のスポーツ庁創設後初めての予算編成。2020年東京五輪・パラリンピックに向けて選手強化の充実などを図るため、文部科学省はスポーツ関連予算として過去最大の324億円(前年度比34億円増)を計上した。新国立競技場建設のための費用は政府と東京都が合意した新たな財源の枠組みを活用するため含まれなかった。
選手強化の中核を担う「競技力向上事業」は17.6%増の87億円。五輪、パラリンピック別では、五輪が70.5億円に対してパラリンピックは16.5億円。若手選手の発掘や育成を行う「戦略的選手強化」は今回からは五輪競技だけでなく、パラリンピック競技も対象となり、合わせて17億円を計上した。今後活躍が期待される種目を選んで重点強化を図る。
■復興 早期帰還・生活再建策拡充 福島関連1兆円超え
10年間の復興期間のうち前半の集中復興期間(事業費約25.5兆円)が終わり、後半の復興・創生期間(同約6.5兆円)の初年度となる。復興予算は前年度当初比6618億円減の3兆2469億円となった。全額国費負担だった前半と異なり、地元自治体も80億円負担する。災害公営住宅などに充てる復興交付金は半減される。
6月に閣議決定した福島復興指針の改定は早期帰還を後押しするとともに、事業や生活の再建・自立に向けた取り組みの拡充を掲げた。これを受け福島関連の支援策は前年度当初比3割増の1兆円超に上る。被災中小企業対象の補助金に加え、新たに福島県の避難指示区域と周辺に特化した企業立地補助金を新設し、320億円を計上。原発の廃炉やロボット技術の拠点を福島県浜通り地域に集積するイノベーション・コースト構想関連事業に145億円を盛り込んだ。除染についても早期帰還のため、前年度当初比1075億円増の5249億円に膨らんだ。また外国人観光客らの呼び込み強化のため東北6県の観光対策を大幅に増やした。
一方、災害公営住宅などに充てる復興交付金については「住まいの確保が峠を越えた」(復興庁)として、1477億円に半減した。
■教育 大学入試改革50億円 「いじめ」「不登校」福祉専門家増員
いじめや不登校など学校の課題に対し、外部専門家らと連携して対処する「チーム学校」構想を推進するため、福祉の専門家のスクールソーシャルワーカーを配置する補助事業は15年度比1.3倍増の3047人分を計上した。不登校の子どもの学校復帰を支援する「教育支援センター」計250カ所に、心理の専門家のスクールカウンセラーを配置する。
国立大学86校の基盤的経費となる運営費交付金は前年度と同額の1兆945億円を維持した。大学の機能強化を促すため、各大学に国が指定した三つの枠組み▽地域貢献▽専門分野を生かす▽世界で卓越した教育研究−−から一つを選ばせ、その達成度に応じて翌年度の配分額を決める仕組みを新たに導入する。
■沖縄 子ども貧困対策計上
沖縄振興予算は3350億円で、前年度当初比10億円の微増となった。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設に反対する翁長知事と国が対立する中、概算要求額(3429億円)には届かなかったが、要求になかった子どもの貧困対策(10億円)を盛り込んだ。
■環境・科学技術 温室ガス削減へ1380億円
国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で「パリ協定」が採択されたのを受け、国内の温室効果ガスを「2030年に13年比26%削減」する目標に向けた事業を本格化させる。
福島第1原発事故の除染で出た汚染土などを保管する中間貯蔵施設(福島県大熊、双葉両町)の用地購入費などに約1346億万円を盛り込んだ。
成長戦略の柱となっている「科学技術イノベーション」推進のため、科学技術振興費を1兆2929億円とし、今年度当初予算より72億円増額した。
■地方 自治体の活性化策支援 創生事業費1兆円
東京一極集中の是正と人口減少の歯止めを目指す地方創生関連は、地方自治体の取り組みを促す「まち・ひと・しごと創生事業費」に前年度と同額の1兆円を計上した。「新型交付金」(1000億円)とともに地域特性に合わせた自治体の活性化策を支援する。
16年度の地方の一般財源総額は、前年度に続き過去最大を更新する見込みだが、社会保障関係費の増加が主な理由のため、地方の自由度は少ない。多くの自治体の財政はギリギリで、『創生事業費』1兆円によって何とかやりくりできているのが実情だ。
■サミット・テロ対策 警備費3.8倍、142億円
2016年5月の伊勢志摩サミットの警備費は前年度の約3.8倍となる142億6700万円を計上した。国際テロ対策推進費は14億2700万円。
来年度予算案決定 子育て・介護・TPPなど 重点項目は
来年度予算案では、誰もが活躍できる「一億総活躍社会」に向けて「希望出生率1.8」や、「介護離職ゼロ」、それに「強い経済」の実現に向けた施策に多くの予算が振り向けられる。
「希望出生率1.8」の実現に関連した施策
<子育て・出産>
▽大きな柱となる「子育て支援」では、平成29年度末までに保育所などの受け皿を新たに50万人分増やすため、保育所の整備費用などとして2748億円が計上された。
▽企業が従業員向けの事業所内保育所などを整備する際に、市区町村の認可がなくても、国からの補助金を受けられるようにする新たな事業として、797億円が盛り込まれた。
<ひとり親家庭などへの支援>
ひとり親や子どもの多い家庭への支援策が拡大される。
<教育>
大学生などへの奨学金事業について、日本学生支援機構が行う無利子奨学金の対象を1万4000人増やすことや、所得に応じて返済額が変わる奨学金の導入を進めるための費用などに合わせて880億円を計上した。
<就労支援>
パートで働く主婦などの賃金を2%以上増やした企業への助成金を、従業員1人当たり1万5000円から5万円に増やしたり、働く人の希望に応じて労働時間を1週間で5時間以上延長した企業への助成金を、従業員1人当たり10万円から20万円に、増額したりする。
これに非正規労働者の正規雇用への転換や待遇の改善などに取り組む企業への支援策と合わせて就労支援の関連で410億円が盛り込まれた。
介護離職ゼロ
親などの介護にあたるため仕事を続けられなくなる人を減らそうと、「特別養護老人ホーム」や「サービスつき高齢者向け住宅」などを2020年代初めまでに50万人分以上増やす費用として、423億円が計上された。
介護をしながらでも働きやすい環境をつくるため、介護休業給付を賃金の40%から、67%に引き上げるため、44億円が計上された。
低所得者対策
所得が低い65歳未満の人で、障害基礎年金や遺族基礎年金を受給しているおよそ150万人に、1人3万円の臨時給付金を支給するため、450億円が盛り込まれた。
「強い経済の実現」に向けた予算
<IoT・ロボット支援>
インターネットであらゆるモノをつなげる「IoT」と呼ばれる技術やロボット、それに人工知能などを活用して新たなビジネスを生み出そうと、国が主導して実証試験や技術開発を行う費用として、74億円を計上した。
<省エネ設備・省エネ住宅>
最新鋭の省エネ設備を導入する工場などへの補助金や省エネに配慮したビルなどの開発への補助金として625億円を計上した。
<観光>
日本を訪れる外国人旅行者に便利なよう、空港や駅に、海外から持ってきたスマートフォンなどでインターネットが簡単に使えるWi-Fi環境を整備することや、交通機関などの標識の多言語化、それに・旅館のトイレを洋式にする費用などとして200億円が盛り込まれた。
<地方創生推進交付金>
地域活性化に意欲的な自治体の先進的な事業を支援する新たな交付金として「地方創生推進交付金」が1000億円、盛りこまれた。
<6次産業化支援>農家や漁業者と食品の加工業者や販売業者が連携して行う新商品の開発や販路の開拓などを支援するため24億円が計上された。
これらの「一億総活躍社会」に向けた予算は、特別会計を含めて総額でおよそ2兆4000億円が充てられている。
「TPP」対策
TPP=環太平洋パートナーシップ協定の大筋合意を受けて、来年度予算案には農家や中小企業の競争力を強化したり輸出を支援したりする予算も盛りこまれている。
<農業関係>
農産物や食品の輸出を拡大するため、海外での市場調査や、日本の農産物の商談会を開催する費用として13億円を計上している。
また、農家の競争力を向上させるため耕作放棄地を集約して意欲ある担い手の農家に貸し出す、いわゆる「農地バンク」の事業に81億円が盛りこまれた。
このほか、高い収益が見込める野菜や果物を生産できるよう農地を改良するなどの基盤整備を支援する交付金として123億円が計上された。
<中小企業関係>
海外進出を目指す中小企業を支援するため、すべての都道府県に設けている相談窓口の体制を強化したり、専門家を派遣したりする事業に55億円が盛りこまれた。
「復興・原発・災害」
<震災復興>
東日本大震災の復興関連では、今年度の当初予算を6600億円余り下回る3兆2469億円が特別会計に計上された。被災者の心のケアや生活再建の相談支援などを拡充するため、「被災者支援総合交付金」を創設して220億円を計上した。
<原発事故>
東京電力福島第一原子力発電所の事故への対応では避難指示区域や緊急時避難準備区域に指定された地域を対象に、工場や小売店、飲食店などを建設する費用などを支援する「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」を新たに設け、320億円を計上した。
<災害>
災害関連では、ことし9月の「関東・東北豪雨」など大規模な水害や土砂災害が起きた地域で堤防のかさ上げなどの対策を進めるための予算として478億円が計上された。
「来年度予算案に盛り込まれたそのほかの主な内容」
<教職員定数>
来年度の公立小中学校の教職員定数は、少子化を踏まえ、全体で3475人削減することになった。
<普天間基地移設関連事業>
また、ことし10月、沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設に向けて名護市辺野古沖の埋め立て工事に着手したことを踏まえ、護岸工事や埋め立てにかかる費用などとして、1707億円を計上した。
<整備新幹線>
北陸新幹線や北海道新幹線、それに九州新幹線長崎ルートの建設費のうち国の負担分として、今年度と同じ755億円が盛り込まれた。