2015-12-09 警鐘:「観光後進国ニッポン」の最重要課題 接岸できる港がない
皆さんは、大型客船で日本を訪れた外国人の数が今年、年間100万人を超えたことをご存知だろうか。
大型客船で日本を訪れた外国人観光客は、8日、福岡県博多港に3500人を乗せた大型客船「コスタセレーナ」が韓国・チェジュ(済州)島から到着したことで、訪日外国人の数は年間100万人に達し、過去最多となった。博多港では記念の式典が開かれ、100万人目となった中国・杭州市から訪れた家族に花束や博多人形などが贈られた。
江島国土交通政務官は「2020年にクルーズ船客100万人の達成を目標にしていたが、5年前倒しして実現することができ、関係者に感謝しています」とあいさつした。大型客船で日本を訪れる外国人観光客は、おととし年間17万人だったのが、去年は41万人と2.4倍に急増していて、ことしは今回の寄港で去年のさらに2.4倍の100万人に達し、過去最多となった。
これに伴って、大型客船の寄港も増加していて、4年前には年間808回だったが、3年前に海外の船会社の船が増加して1105回と1000回を超え、おととしは1001回とやや減ったものの、去年は1204回となり、ことしは今回の寄港で1395回となった。
一方で、国土交通省によれば、大型客船が接岸できる港が不足する状況に陥っているとのこと。さらに、定員5000人を超える全長360メートルの世界最大級の大型客船が日本への寄港を検討しているものの、岸壁の強度が不足し、現時点で対応できる港がないというのが「観光後進国」である日本の現状だ。
石井国土交通大臣は閣議のあとの記者会見で、「当初、2020年までの6年で実現しようとした100万人という目標を2年目で達成でき、非常に喜ばしく感じている。観光立国の実現や地方創生にクルーズの振興は極めて重要だ」と述べた。そのうえで石井大臣は、大型客船が接岸できる港が不足したり、世界最大級の大型客船は岸壁の強度が足りず寄港できなかったりする課題があることについて、「まずは既存のターミナルの改良などで対応したい。クルーズ船の係留に必要な設備の追加について、今年度の補正予算や来年度の当初予算で対応が図られるよう検討していきたい」と述べ、対応を急ぐ考えを示した。
対応を急ぐ? いかにも対応が遅い。民間であればこのようなことはありえない。国がインバウンド増加の順風に甘んじて、対策を怠っていると言われても仕方がないだろう。観光が今後、この国にとって、どれほど重要なけん引役になるかを実感できていないのではないだろうか。風任せの対応、他人事のようなコメントには怒りを通り越して呆れてしまう。いまだにこの程度の認識だ。このようなことでは「観光立国」は一旦逆風が吹き始めれば、あっと言う間に絵空事となってしまうだろう。「まずは既存のターミナルの改良などで対応したい」。なんと情けないコメントだろう。国土交通大臣の言うことだろうか。それでは「まずの対応」の後はどうするのか? 長期のビジョンというものがなく、その場しのぎは日本政治の悪しき伝統だが、国民に対して、「GDP(国内総生産)600兆円」とかというスローガンを示すだけではなく、ちゃんと現実的で夢のある長期プロジェクトとして、世界に誇れる港とそれを取り巻く施設を作るというようなことを真剣に考えるチームを起ち上げるべきであろう。それもなるべく無責任で税金の無駄遣いになりがちな国家主導ではなく、民間主導で。IR(統合型リゾート)の導入によってこれらは一気に現実化すると思われるのだがいかがだろうか。
日本に寄港する大型客船のうち、大きなものは8日に博多港に入港したような10万トンクラスの客船だが、今後、世界的に客船の大型化が進んでいて、20万トンを超える世界最大級の大型客船も日本への寄港を計画するようになっている。世界最大級の大型客船は、博多港に入港したおよそ11万トンの客船の2倍にあたる22万5000トン級の大型船で、5400名もの乗客を乗せることができる。アメリカの原子力空母より長い全長360メートルで、高さは65メートルと、16階建てのビルに相当する。船内にはプールや劇場のほか、メリーゴーランドやカジノなども備えている、さながらIR(統合型リゾート)のミニチュア版といったところだ。しかし日本に遊びに来ようと思っても、寄港できる港がないのが現状で、何とも情けなく、「お・も・て・な・し」の掛け声だけがむなしく響く。
世界からの裕福な層の観光客をお迎えし、楽しんでもらえるような、世界最大級の美しい港を備えたIR(統合型リゾート)の必要性を強く感じるのは我々だけであろうか。来年1月4日から始まる通常国会での「IR推進法案」の早期の審議入りと法案可決を願ってやまない。