2015-11-09 MICEとIR(統合型リゾート)
MICEという言葉をご存知でしょうか? MICEとは、Meetings, Incentives, Conferences, and Exhibitionsの頭文字を取って作られた略語で、観光庁(国土交通省)によれば、MICEの意義について、以下のように説明されています。
MICEとは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)のことであり、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称です。
MICEは、企業・産業活動や研究・学会活動等と関連している場合が多いため、一般的な観光とは性格を異にする部分が多いものです。このため、観光振興という文脈でのみ捉えるのではなく、MICEについて、「人が集まる」という直接的な効果はもちろん、人の集積や交流から派生する付加価値や大局的な意義についての認識を高める必要があります。
具体的には、以下に掲げる3つの主要な効果が考えられます。
[1]ビジネス・イノベーションの機会の創造
MICE開催を通じて世界から企業や学会の主要メンバーが我が国に集うことは、我が国の関係者と海外の関係者のネットワークを構築し、新しいビジネスやイノベーションの機会を呼び込むことにつながります。
[2]地域への経済効果
MICE開催を通じた主催者、参加者、出展者等の消費支出や関連の事業支出は、MICE開催地域を中心に大きな経済波及効果を生み出します。MICEは会議開催、宿泊、飲食、観光等の経済・消費活動の裾野が広く、また滞在期間が比較的長いと言われており、一般的な観光客以上に周辺地域への経済効果を生み出すことが期待されます。
[3]国・都市の競争力向上
国際会議等のMICE開催を通じた国際・国内相互の人や情報の流通、ネットワークの構築、集客力などはビジネスや研究環境の向上につながり、都市の競争力、ひいては、国の競争力向上につながります。海外の多くの国・都市が、国・都市の経済戦略の中で、その達成手段の一つとしてMICEを位置付け、戦略分野/成長分野における産業振興、イノベーション創出のためのツールとして国際会議や見本市を活用しており、我が国においても、MICEを国・都市競争力向上のツールとして認識し、活用することが重要です。
しかし、そのMICE施設ですが、必ずしも、政府の期待するようなものではないのが日本の現状と言えます。
全国に数多くあるコンベンション施設や展示施設は、ほんの一部を除き、地方自治体の設置による公設公営型、又は指定管理等を導入した公設民営型です。施設によって土地、建物の所有形態は異なっていますが「公の施設」として、建物は行政が所有している公有財産であり行政財産のケースがほとんどです。こうした財産では、年月を経て大規模修繕が必要な場合、民間のマンションのような積立等のシステムはなく、小規模修繕や維持費は捻出できても、大規模な修繕、改修などの道は財政的にも手続き的にも多くの困難があり、個別の自治体だけでは対応しきれない現実があります。
日本初の国立京都国際会館(京都国際会議場)は、そろそろ完成後50年を経過し、現在ある2000名弱収容の大ホールを国際基準にすべく5,000名規模を目指していますが、その建て替え費用の捻出もおぼつかなく、ようやく2014年度に2,500名規模の新ホール設計費が計上されたというのが現状です。地方自治体の財政力では、限界があります。
1980年代から全国にコンベンションホール、展示場等のMICE施設が建設・利用されていますが、その後30年以上を経て、老朽化や国際基準に満たないといった問題が多くみられるのが実情です。国としても財源に乏しく、決め手となる対策が講じられずにいます。
近年、観光立国実現や日本再興のために、MICEに対して多大な期待がかかっています。しかし、状況は悲観的で、国家戦略として位置付けているにも関わらず、MICE施設の社会資本としての位置付けが弱く、地方自治体任せの実態は否めません。
その希望の光としての可能性を示すのが、IR(統合型リゾート)構想=創生案です。日本におけるIR(統合型リゾート)が、MICE施設と、カジノを含む観光施設の集合体と定義されるとすれば、カジノからの営業収益還元が、設置される自治体のみならず、社会福祉や観光政策と共に、当然、MICE施設へも及ぶべきです。
IR(統合型リゾート)に投資しようとする会社や団体の中には、最初からMICEとカジノを含む観光施設の集合体を中心に据えたIR(統合型リゾート)構想を備えた世界的な企業が多いことは、ラスベガスやシンガポール、マカオやマニラの例をとっても実証されています。特に、シンガポールなどは、MICEの開催地として多くの海外企業、国際団体から選ばれています。MICEを備えたIR導入後の2012年の国際会議開催件数も、2009年比約4割増の952件で、国単位で世界1位となる二次効果をもたらしました。その一方で、日本はどうでしょうか。現在の日本がMICEの開催地として積極的に考慮される理由はあるでしょうか。
「税収不足の中で、新たなエンターテインメント性をもって経済効果を狙っていくにはMICEはカジノをセットでやらないと難しい」とIR誘致の最有力候補のひとつと言われている横浜の林文子市長はこう強調しています。
MICEとカジノを含むIR(統合型リゾート)の可能性については、もっと活発な、そして前向きな議論が交わされるべきだと強く信じます。
IR研究会