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2015-11-05 オピニオン: アベノミクス新三本の矢「GDP600兆円」という目標達成への課題

9月24日、自民党総裁再選後、記者会見した安倍晋三首相は「アベノミクスは第2ステージに移る」と宣言し、経済成長の推進力として新たな「三本の矢」を発表した。
旧「三本の矢」は「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」の3つ。このうち日銀の協力を得た金融緩和は円安・株高でアベノミクスの基盤を築いた。財政政策は一時的な刺激策で評判はいまひとつ。市場が期待していたのが「道半ば」と言われ続けた3本目の矢の成長戦略だった。
第二次安倍政権が2012年12月に発足して以来、この間、株価は2倍超になり、企業の業績も過去最高水準に回復してきた。だが残念ながら、「円安が輸出増に」、「企業業績拡大が設備投資増加に」、「雇用増が消費増に」という好循環には繋がっていないのが実情だ。
新たな3本の矢は、2020年に向けた経済成長のエンジンで、(1)希望を生み出す強い経済、(2)夢を紡ぐ子育て支援、(3)安心につながる社会保障、という3項目から成っている。
その新しい矢(目標)の筆頭に挙げたのが、「希望を生み出す強い経済」で、14年度に490兆円だった名目GDPを2割増やすため、女性や高齢者、障害者らの雇用拡大や地方創生を本格化して「生産性革命を大胆に進める」とし、5年後の2020年にGDP600兆円を達成するというもの。この目標値に対しては、経済界を始めとして、多くの関係者から疑問の声が上がった。一部のエコノミストは、600兆円は非現実的な数字、個々の目標数字も実現への道筋が不明だと指摘する。
それでは、政府は具体的にはどのような策を講じて、その高い目標を達成しようとしているのか。政府が10月4日に開催した経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)において、民間議員の一人が「名目国内総生産(GDP)600兆円」達成に向けた積み上げ策を提示した。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を活用したインフラ輸出の増加や賃金の引き上げ、女性の雇用促進などでGDP(2014年度で491兆円)を約110兆円上積みし、20年度ごろに600兆円を達成すると説明した。安倍首相は目標達成に向け、11月中に緊急対策をまとめるよう、甘利経済再生相に指示した。
伊藤元重東大教授ら4人の民間議員が、実現のイメージを提示。約110兆円のうち60兆円強は経済の実力を示す「潜在成長率」を現状の1%弱から2%程度に引き上げることで達成。残り50兆円弱は、物価や賃金の上昇などでGDPを底上げするとした。特に大きく見込んだのが賃上げに伴う消費の増大で、賃金が、成長率と同じ名目3%程度伸びることが必要と強調した。
潜在成長率の引き上げで、期待しているのがTPPだ。投資ルールの共通化などで新興国の「参入障壁」が緩和され、発電所などのインフラ輸出が10年の10兆円から30兆円規模に膨らむと算盤をはじいた。また、法人実効税率の引き下げや規制緩和で、設備投資を10兆円上積みさせると説明。宿泊施設などの拡充により、訪日外国人の消費を14年の2兆円から7兆〜10兆円に伸ばすとした。人口減対策で、女性や高齢者の雇用を500万人分増やすことなども盛り込んだ。
我々として、特に注目したいのは、(1)訪日外国人の消費を14年の2兆円から7兆〜10兆円に伸ばすと、(2)人口減対策で、女性や高齢者の雇用を500万人分増やすこと、という二点だ。
5年後に訪日外国人の消費を今の5倍に増やすということは、訪日外国人の数も同様に増えなければならないが、これをどのように達成するのだろうか。オリンピックを開催すれば、それだけで事足りると安易に考えてはいないだろうか。オリンピックのブームは一過性のもので、定着はしない。多くの国で、オリンピック後のリセッション(景気減退)が起きている。カンフル剤にはなるかもしれないが、決して持続的成長戦略ではありえないのだ。日本を多くの外国の人々に訪れてもらうためには、日本を度々訪れてみたいと思わせる仕掛けが必要なのだ。その答えのすべてがIR(統合型リゾート)というわけではないが、インバウンド(外国からの訪問客)を増やすための、強力な武器となることは間違いない。国として、ぜひ前向きに検討してほしいものだ。
このことは、(2)の雇用と消費の増大にも繋がる。雇用を増やしたところで、介護だとか、非正規雇用、パートタイムといった労働者が手にする賃金は、他の業種よりも低く、大幅な消費拡大にはつながらない。IR(統合型リゾート)法が制定されて、日本の数ヶ所でIR(統合型リゾート)が実現することになれば、海外の企業から、数兆円の投資と、それにともなう雇用が見込まれる。サービス業とはいえ、観光業でもある、IR(統合型リゾート)では、必要に応じて、応分の賃金が支払われる。
日本政府にはそのシナリオがあるだろうか。IR議連の中には、きっと似たような構想をお持ちの先生方が多くおいでではないかと信じている。ぜひ、2020年GDP600兆円という目標に向けて、IR(統合型リゾート)を積極的に活用することを考慮してほしいと願ってやまない。
IR(統合型リゾート)研究会

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