IRビジネス研究会

IR実施法案に関する基本的な考え方

特定複合観光施設区域整備法案(仮称)~IR実施法案~に関する基本的な考え方

平成26年10月16日 改訂

国際観光産業振興議員連盟

1. カジノを含むIRの実現、実施に関する基本的な考え方

●IRは観光振興、地域振興に資する成長戦略の一つのツールである。

統合型リゾート(Integrated Resort、略称IR)とは、宿泊施設、会議施設、飲食施設、物品販売施設等とともに、カジノやその他のエンターテイメント施設を含む複合的な観光施設をいい、都市や観光地において、観光客、ビジネス客、一般市民等を顧客とする高規格、集合的な集客施設群である。IRは、都市や観光地の魅力を高め、観光客、ビジネス旅客の集客を可能にし、施設整備に伴う建設需要、整備・運営に伴う雇用効果、運営に伴う税収効果、集客に伴う消費効果等の様々なシナジーにより地域経済を活性化し、再生する効果をもたらすことが期待されている。日本再興戦略(平成25年6月14日策定)において、政府は2030年までに訪日外国人3000万人を目標としており、IRの整備は国の成長戦略に位置付けられるべきものであり、2020年東京オリンピック・パラリンピックに間に合うよう、最大限努力すべきである。

●カジノ・エンターテイメントを、適切に管理することにより、健全、安心、安全な成人の娯楽の場を提供する。

IRの一部を構成するカジノ・エンターテイメント施設は、現行の刑法では禁止されている賭博行為を提供する施設となるが、適切な規制と監視の仕組みを制度として設け、その施設を厳格に管理することにより、健全、安心、安全な成人の遊興と「することができることが先進国の事例では立証されている。健全、安心、安全なエンターテイメントとしてのカジノを提供できる制度的な枠組みを設け、そのもたらすデメリットを管理しつつ、最大限のメリットを国や地方自治体、地域社会が享受できることを立法の目的とする。

●IRの設置総数・設置区域は限定し、慎重かつ段階的な導入を図る。

カジノを含むIRは、全国津々浦々に設置すべき施設ではない。わが国におけるその施設総数・設置区域を明確に限定し、かつ、その着実な施行を確認して、段階的に設置することを基本とする。その際、大都市のみならず地方への設置も検討することが望ましい。

●地方公共団体の申請に基づき、国がIRの設置区域・地点を指定する

カジノを含むIRが設置される区域・地点の指定は、地方公共団体による提案・申請をもとに、国がこれを評価・判断し、指定する。この際、国はIR推進について基本方針を策定するなどその方向性を示す必要がある。カジノはこのIRの内部でのみ、その施行が可能となる。

●カジノの施行は民設民営を基本とし、区域指定を受けた地方公共団体が民間事業者を選定する

指定を受けた地方公共団体は、IRを自らの費用とリスクによって整備し、運営する民間事業者を公募により選定することを基本とする。

●民間事業者は別途、国から免許を取得する必要がある

民間事業者は、別途、国に対し申請し、廉潔性、適格性等の審査を経て、免許を取得できた場合、初めてカジノ施設の運営ができることとし、民間業者による運営行為は国による厳格な規制と監視の対象とする。

●規制と監視のために国の規制機関を新たに設ける

カジノの運営を規制し、監視するために、国の規制機関としてカジノ管理委員会を設ける。カジノ管理委員会は、国家行政組織法第3条に基づく行政委員会とし、内閣府の外局に設置する。同委員会は、立法府・行政府から独立した権限を保持する国の機関として、運営詳細に関する規則を制定し、カジノ施設とその運営に関与する主体の免許・認証付与、認可及びカジノの施行の監視、監督、違法行為摘発等を担う。

●国民の懸念を払拭し、国民の理解と支持を得られる制度構築を図る

実施法の策定に際しては、賭博行為が社会にもたらしうる危害やリスク等を徹底的に排除する考えや、危害を最小化する、あるいはたとえ危害が生じてもその影響をできる限り縮小化する様々な考えや手法を採用することを前提とする。特に、不正や組織悪等を完璧に排除すること、地域環境の健全化や公共秩序の安全を維持すること、青少年への否定的な影響を断ち切ること、賭博依存症患者等に対する積極的な対応処置を講ずることを前提とする。

2. IR実施法制定へ向けての基本的な考え方

●観光振興と国・地方の経済の活性化、財政への寄与を目的とする

国際競争力のある魅力ある観光地の形成により、内外の観光客数を増大し、地域経済の振興を図るために、国により指定された地域に限り、金銭を賭すエンターテイメントとしてのカジノを提供する施設を核とした複合観光施設(統合型リゾート、IR)の整備を図り、その収益の一部をもって地域経済の振興と少子高齢化に直面した国の財政に資することのほか、社会保障の充実や文化芸術の振興、ならびにクールジャパンの推進に資することを目的とする。

●特定複合観光施設と特定複合観光施設区域の指定

カジノ施設、宿泊施設、会議場施設、展示施設、リクリエーション施設、飲食施設、物品販売施設等、地域の観光振興に資する集客施設群を「特定複合観光施設」(これがIRとなる。但し、IRは法律上の定義ではない)と定義し、一定の条件の下にかかる施設を設置できる区域として、地方公共団体ないしはその一部事務組合の申請に基づき、主務大臣が指定する地域を「特定複合観光施設区域」と定義する。この区域・施設の内部においてのみ、カジノ施設の設置と施行ができる。

●特定複合観光施設区域の数と指定の在り方

特定複合観光施設区域及びその中に設置されるカジノを含む特定複合観光施設は、カジノ施行の安全性、安定性、健全性を担保し、その政策的効果を確実にするために、実施法制定後の最初の認定区域は2、3箇所程度で限定的に施行し、効果、課題を十分に評価、検証しながら、その着実な施行を確認した後に、段階的に施行数を増やしていく考え方を基本とする。
区域・施設の総数を限定する施策は、公平性、透明性のある判断基準、手続きにより、地方公共団体に不公平感が生じない配慮をした制度設計が必要である。

●地方公共団体による民間事業者の選定

地方公共団体は、競争性、公平性を具備した公募手順に基づき、特定複合観光施設区域において特定複合観光施設の開発、整備、運営を自らの費用とリスクで担う民間事業者を選定し、当該区域にかかる施設を設置させることができる。その際、設置の条件を地方公共団体と民間事業者との間で取り決める。地方公共団体と民間事業者の関連する協定は、国の規制機関の認証を必要とする。また、地方公共団体は、IR設置後、カジノが社会に与えるマイナスの影響やリスクを最小限に抑制するよう取り組んでいくことが望まれる。

●国の規制機関としてのカジノ管理委員会の役割

カジノ管理委員会は3条委員会として、内閣府の外局として設置され、国民に安全、健全、公正なゲームを提供するために、カジノの運営に関する詳細規則等を制定するほか、悪、組織悪、不正等の介在を防止し、地域社会の公序良俗を保持するために必要な施策を講ずる。かつ、健全、安全なカジノの施行が確保できるように、カジノの運営等に直接的、間接的に関与する民間主体等を審査し、免許、認可、認証等を付与し、都道府県警察と協力の下、運営の監視、検査、監督、査察、関連しうる違法行為の摘発等を担うことを主たる任務とする。

●カジノを施行する民間事業者は免許を取得しなければならない

地方公共団体により選定された民間事業者が、特定複合観光施設にてカジノの施行を要望する場合には、国際基準と同等の所定の書式、手続きに基づき、別途、国の規制機関となるカジノ管理委員会に申請し、免許を取得しなければならない。カジノ管理委員会は、民間事業者による費用負担に基づき、背面調査、審査を実施し、当該民間事業者の適格性を検証の上、免許を与えるか、この申請を拒否できる。
同様に、当該民間主体の5%以上の有効議決権を保持する主要株主、経営者、主要管理職及び、直接的・間接的にゲームの運営に関与する職員は、すべからくこれら業に従事するに際し、国際基準と同等の所定の書式、手続きに基づき、カジノ管理委員会に申請し、その背面調査・審査を受け、免許を取得しなければならない。

●免許の前提として、欠格要件と適格要件を定義する

カジノの施行を担う民間事業者に関しては、不適切な者を排除するために欠格要件を定義するが、同時に法順守の組織内体制や、高い社会的責任、高潔な倫理観、社会的信用度、財政的資力や資金調達力、運営・経営能力、経験等の適格要件が国の機関となるカジノ管理委員会により定められ、これを満たすことが免許付与の前提となる。

●民間事業者に付与された免許は違法行為等の場合には取り消す

カジノ管理委員会は、法が定める一定の事象が生じた場合、催告をもって施行者に対し、その是正、修復を求めたり、適切な履行を求めたりすることができるとともに、施行者に対する免許を一時的に停止したり、取り消すことができる。
カジノ管理委員会により、施行者の免許が取り消され、地方公共団体と当該施行者との協定が解除される場合には、地方公共団体は、カジノ管理委員会の許可を得て、施行者の資産を第三者に継承させることを前提に、新たな施行者を選定する手順を踏むことができる。

●施行に使用する関連機械、システム、器具等の製造事業者、施行に係わるサービス提供事業者も免許の対象とする

施行に使用される関連機械、システム、器具等を製造し、販売する事業者、施行に関するサービス提供事業者、当該企業及び関連する役職員は、企業及び個人いずれもが、カジノ管理委員会が定める国際基準と同等の書式、手順に基づき、別途カジノ管理委員会に申請し、その審査を経て、免許を取得しなければ、当該業務に従事することはできないことを基本とする。

●施行に使用する機械、システム、器具等は全て認証の対象とする

カジノ管理委員会は、カジノ施設内でゲームに用いられる機械、器具、用具、システム等の形式、技術標準、技術上の規格等を規則として定めるものとし、施行者はカジノ管理委員会が定める技術標準、技術用の規格に準拠し、同委員会が認証する以外の機械、器具、用具、システム等を用いてはならないことを基本とする。

●運営に関するあらゆる行為は規制と認証の対象とする

カジノ施設内で規制の対象となるゲーミング区域におけるあらゆる行為は原則既成の対象となり、カジノ管理規制委員会による認可、認証の対象となる。かつ、これら行為は全て監視の対象とする。また、カジノ管理委員会は、施行者、施行に直接的に関与する者、及び顧客が遵守すべきカジノ施設の運営等に関する詳細規則を定めることができる。但し、カジノ管理委員会が定める規則は、国際的慣行・標準に適う内容であることを基本とする。

●施行に伴う納付金及びその使途

施行を担う民間事業者は、少子高齢化に直面した国の財政に資することを目的に、また国民がその便益を享受できるように、施行に伴う施行者勝ち分売り上げの一定率を納付金として、国に納付金しなければならない。国は、この納付金の一部を社会保障の充実や文化芸術の振興等のために当てることができるものとする。
地方公共団体は、国とは別個に、施行者勝ち分売り上げの一定率を国の取り分率を上限にして、別途条例で定めることにより、納付金として徴収できる。この場合、立法の趣旨に則り、予め条例にて、納付金の使途を定めなければならないものとする。

●入場料を賦課できるものとする

国及び地方公共団体は、各々政令ないしは条例で定めることにより、カジノ施設の入場者から入場料を徴収することができるものとする。諸外国に事例があるように、内国人に限って入場料を課する施策には、一定の抑止効果を期待することができる。

3. 社会的関心事への対応

エンターテイメントとしてのカジノの楽しさと面白さを損ねることなく、過度の賭博消費を促すことを抑止し、健全性、安全性を担保したバランスの取れた健全な施行を心がけることが、国民の信頼と信任を得ることに繋がる。

●暴力団組織の介入や犯罪の温床になること等を断固、排除する

カジノ施行に係わる参入要件と行為規則を厳格に規制し、関与する個人・法人の清廉潔癖性と遵法性を要求することにより、暴力団組織等による介入を完璧に排除することができる。また、施行に係わる規則等も厳格にその履行と遵守・監視を担保する仕組みを構築すれば、カジノが犯罪の温床になるということはあり得ない。
また、カジノ管理委員会との連携により、入場者全員の本人確認を義務付けることにより、暴力団組織等に関係する者の入場を完全に排除するものとする。

●マネーロンダリング(資金洗浄)を防止する

カジノ施設は諸外国では国際機関であるFATF(金融行動タスクフォース)勧告に基づき、疑似金融機関と位置付けられており、一定金額以上の賭け金行動をする個人の本人確認、疑わしい行為等の規制当局に対する報告義務等マネーロンダリングを防止する枠組みが法定されている。わが国もFATF勧告に基づく制度が存在し、カジノ施設をこの中に追加することにより、先進諸外国と同等の規制によりマネーロンダリングを防止することとする。

●地域風俗環境悪化、公序良俗の乱れを防止する

カジノにてゲームが行われる区域は、厳格な管理規制区域となり、この区域におけるあらゆる行為は規制と監視の対象となる。IRは高規格の施設群となり、カジノはその一部を構成する遊興施設となるため、カジノの存在自体が、地域風俗環境の悪化をもたらしたり、公序良俗の乱れをもたらしたりするということは、想定しにくい。施設内外は、当然のことながら、監視、警備の対象となり、都道府県警察との連携、協力により、施設内外の地域の環境悪化を防止し、秩序を維持することが全ての基本となる。

●青少年への悪影響を防止する

カジノとは成人が自己責任の下で為す遊興でもあり、制限区域に顧客が入場する際、施行者に対し、入場者全員の本人確認を義務付けることにより、青少年による入場を完全に排除するものとする。

●カジノ施設への日本人の入場については、一定の条件・規制を設けることとする

IRの目的が国内外の観光客を集客する国際競争力の高い観光地の形成、地域経済の活性化にあることから、カジノ施設が社会に及ぼす社会的問題を最小限に抑制する対策を講ずることを前提に、カジノ施設への日本人の入場については、一定の条件・規制(入場料、排除プログラム、成人等)を設けることについて検討する。

●賭博依存症患者の増大を防止し、その対策のための機関を創設する

わが国では、既存の公営賭博等や遊技にも既に同じ社会現象が存在することが知られており、これらをも含む形での国としての対応を早急に処置することが必要である。制度として賭博行為を認めている以上、一定の社会的セーフティネットを構築することが当然である。このため、公営賭博分野を含めた調査の実施と実態の把握、依存症問題対応のための国の機関を創設し、中長期的な対応策や短期的対処プログラムの策定、調査研究の奨励、治療やカウンセリング体制具備のための支援を行うこととし、その財源にはカジノからの納付金収益の一部をあてるものとする。
また先進諸外国で制度化されている賭博依存症の症状にある顧客本人ないしはその家族の要請に基づき、当該顧客をカジノに立ち入らせることを禁止する予防措置(自己排除プログラムならびに家族強制排除プログラム)については、導入を積極的に検討するものとする。

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