キーパーソンインタビュー
日本におけるIR実現に向けて(パート1)
美原融 大阪商業大学教授 アミューズメント産業研究所長
IR推進法案の起草者の一人である大阪商業大学教授・アミューズメント産業研究所の美原融所長に、日本におけるIR実現に向けたシナリオ、その過程における様々な課題を全ての人に分かりやすく語っていただいた。
IRとはどういうものかを簡単にご説明ください
美原:IR(Integrated Resort)とは、カジノを含む統合型リゾート。カジノ導入に当たりシンガポールが使って広まった言葉であり、大規模なホテルやコンベンション施設、高級ショッピングモール、劇場や遊園地などのエンタテインメント施設や、パーク、MICE施設などを一つの区域に含む統合施設です。
MICEとは企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会、イベント(Exhibition/Event)の頭文字をとったものです。
世界的に見てもIR導入を進めるところが増えてきました。日本でも10年以上にわたり、カジノ導入の是非が議論されてきましたが、IRという新たなコンセプトのもとでカジノ導入の機運は高まりました。
2010年4月には超党派の「国際観光産業振興推進議員連盟(以下IR議連)」が発足。11年8月には「特定複合観光施設地域の整備の推進に関する法案(以下IR推進法案)」を公表。今国会へもIR推進法案が提出され、IR実現の気運は高まりつつあります。
IRは機能面と施設面という2つの視点から捉えると理解しやすいと思います。機能面から見ると、遊ぶ、泊まる、観る、楽しむ、仕事をする、買い物をする、食事をするといったさまざまな機能を一体化させたリゾート複合観光施設であると言えます。人を集めてにぎわいを作り、多彩な機能が多彩な集客を可能にして消費のシナジー効果を創出します。
施設面から見ると、カジノ、コンベンション・会議施設、宿泊施設、劇場、テーマパーク、ショッピングモール、飲食施設、美術館、博物館、スポーツ施設など、エンタテインメントとビジネスを包括する一体化した施設であり、さまざまな遊びや体験が自由に選べる非日常的な空間、施設だと言えます。
一体開発して統括的なマネージメントを行ない、収益力のあるカジノを組み込むことで高規格の施設と質の高いサービスを実現すれば、誰もが行ってみたい施設となります。都市部に作るときは、その都市を代表するようなユニークな景観を備えていることも重要になるでしょう。
なぜいま日本にIRが必要なのでしょうか?
美原:政治家の先生方は、成長戦略の一環とお考えです。
例えば、ひとつの施設で5,000億円、6,000億円規模の民間投資を誘致できれば、その投資家が誰であれ、膨大な経済効果がもたらされるのは間違いありません。
そういった意味では、海外からの投資も含めて地域社会を活性化するメカニズムを制度でつくることによって実現することができます。
あまり税金を使わずに地域社会を活性化することができて、税収増や雇用増をもたらすことができる。お金が動いて人が動くというのは経済にとって一番重要です。
そういうことを作り出す仕掛けを法律で作ろうとしています。
IR誘致を契機にみんなで地域社会の在り方や将来を考え、自分の住む街をどうしたいかを、行政と市民が一緒に考えることが一番必要なことなのです。
IRが実現するまでのシナリオは?
美原:内閣総理大臣が先頭に立って導入に積極的な姿勢を示しましたし、国民的な話題にもなりました。不安定要素はありますが、政治的なコンセンサスさえ取れれば、近い将来IR推進法案が成立するでしょう。
IR推進法案が成立すると3カ月以内に内閣総理大臣を本部長とする推進本部が立ち上がり、1年後にIR整備のために必要な実施法(IR法)を作ります。同時並行的に官僚組織が内閣府の中に立ち上がり、実質的にそこが実施法を作る母体となります。実施法ができるまでの間には、有識者会議が開かれたり、公聴会が開かれたりするでしょう。そこでの議論をオープンにしながら、問題を整理して国民に分かりやすく説明していきます。
IR推進法案はIRの中身を必ずしも詳細に説明していないために、国民にとって分かりにくい部分もありますが、実施法案を議論する過程で国民の理解も得られるはずで、これを契機として後は一気に動き出すと思います
※本ウェブサイト上メニューIRとはご参照。
IRが実現するとしたら、どのような形で具体化されるのでしょうか?
美原:現在、大都市型と地方型という2タイプのIRが考えられています。大都市型はシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズのようにカジノとそれ以外の施設と機能を1カ所に集約させたものになるでしょう。これは前述のようにアイコン的、印象に残るユニークなデザインの建物を作り、東京や大阪のような大都市で展開する場合には投資規模は5000億円から1兆円にのぼると予想されています。
地方型はそれぞれの地域の自然や特性を活かしたものになるでしょう。沖縄なら美しい海、北海道なら雪山といった観光資源を利用しながら、地域経済振興の視点も加えたプランが作られるでしょう。こちらの投資規模は1000億円から2000億円ほどになると想定されます。
しかし、IRを招致実現するには、本来ポテンシャルがある地域を、どう産業的に構成し、どのように観光政策上位置づけるかという、グローバルなビジョンがなければいけません。それを広域的な自治体と基礎的自治体が共有しながら、また、地域住民と合意形成しながら共同して実現していくというアプローチが必要になります。
今の時代は自治体間、地域間で競争が起こっています。この地域をどうしたいのかというイメージを、行政組織や、知事、市長が共有しながら地域社会を考えていく。そういう仕組みが必要とされます。
例えば、大阪のように市長がやる気で出てくる地域もあれば、合意形成が要らない東京のような場所もあります。地道に民間が盛り上げながら行政にリードを取らせ、役割分担をうまく決めながらやっていく、あるいは、本当は強い、民間からの力を行政がすくいあげて、いかに自治体全体としての力にもっていくかというのが理想的なモデルでしょう。
IR誘致に選ばれやすいのはどのような場所でしょうか?
美原:それはやはり、合意形成とビジョンを持っているところ。地域社会はどうあるべきかという考えを、知事や市長、行政組織と市民が共有しているところが強いのは間違いありません。
オペレーター(投資家)は誰が選ぶのでしょうか?
美原:選ぶのは国ではなく、基礎的自治体です。例えば、あるIR候補地Aが選ばれれば、そのAの存在する市が選ぶことになります。ですから、市が考えなければならないのは、そのAのビジョンです。そのビジョンを市民と共有するのが市長の役目であり、オペレーターに対して「このAという場所のために何をしてくれますか」、というのが市長の言うべき問いかけになります。
どのくらい投資するのか、雇用はどうするのか、地域社会にどんな影響をもたらすのか、あるいはどのような問題が起こって、そのときどう対処するのか。
それを問いただすことができるのは市です。ですから、ビジョンがしっかりしていないとできないのです。
地域経済への影響はどういうものが考えられるでしょうか?
美原:大規模集客施設というのは、地域社会に様々な影響を与えます。そのあり方を最初から議論していくことが必要です。
よく欧米などで見られるのは、地元の企業からの財とサービスの購入義務です。飲み物や食べ物などは地元から買ってもらい、雇用も地元中心にしてもらうというように、誘致契約で縛っています。あるいは、既存のホテルと投資家が建てたホテルとを連携しながらお客を融通しあうなど。
地域社会の人たちや地元の経済界が、納得するような枠組みを提供しない限りなかなか賛同は得られません。自分たちの事業を取られると思ってしまいます。
ただ、人が集まれば、色んなところでお金は落ちるのは間違いないわけですから、協定を結んで、みんなでお客を呼びましょうというのが理想的でしょう。
プロフィール 美原 融(みはら とおる)氏
大阪商業大学教授・アミューズメント産業研究所長。1973年、一橋大学経済学部卒業。三井物産入社後、三井物産戦略研究所などを経て現職。2001年以降、日本プロジェクト産業協議会の複合観光施設研究会主査として、東京都をはじめとする自治体のカジノ導入の動きを支援。以後は国政にも関わり、IR議連の実質的な顧問を務める。日本のIR推進におけるキーパーソンのひとりである。