ブックレビュー
寺島実郎著「新観光立国論」(NHK出版)
文字通り、「俯瞰」という言葉がピッタリというかしっくりくる1冊だ。NHK出版から上梓された新刊、寺島実郎(日本総合研究所理事長)氏の「新観光立国論」は、まさに、日本の現状と将来を見据えつつ、冷静に、かつ理路整然と、将来の日本の進むべき道を指し示している。
氏はその著書の中で、現在の「日本の経済構造と直面する課題を直視すれば、サービス産業の高度化、そしてその中核として‘観光’を戦略的に考えること」が重要であり、「その意味で、‘統合型リゾート’を真剣に構想すべき」であると書いている。
氏は、創造的観光立国実現のための「基軸とすべき視座」と題して、
① アジアダイナミズムを見つめて(アジアにおける日本の位置)
② 日本の人口構造の成熟化産業構造の行き詰まり(観光立国を必要とする背景)
③ 観光立国、基盤インフラとしての総合交通体系の整備(「相模原モデル」という着眼)
④ 移動と交流という思想(観光を支える哲学 移動は人間を賢くする)
⑤ 創造的観光という視界(日本に引きつける魅力はあるか)
⑥ 真のIR(統合型リゾート)とは何か(問われる創造力と統合力)
という6つのテーマと観点から持論を述べている。
その上で、①国際収支の赤字、②日本はすでにアジアのトップランナーではない、③日本の21世紀に入り進んでいる日本の貧困化、④異次元の少子高齢化に対し、未来をにらんだ複合ビジネス創出への提案が行われている。人口減と高齢化へ向けて異次元のように進行する日本は、モノづくり国家を超えてサービス産業の高度化を図らねばならない。
その中核は観光産業の隆盛であるという観光立国へ向けての思想書である。また、資料編の充実も特徴である、との読者からの感想も寄せられている。
詳細なデータに基づいた、とても説得力の高い、まさに日本の将来への前向きな提言で、ぜひ偏見や先入観なしに素直な気持ちでお読みいただきたい1冊だ。